東京高等裁判所 昭和30年(う)276号 判決
被告人 孔泳淳
〔抄 録〕
控訴趣意第一点について。
原審第七回公判調書によれば、弁護人は、同公判期日前、検察官に対し同期日に尋問すべき証人等の検察官面前調書の閲覧を求めたが、検察官からこれを拒絶されたということを理由として、同公判期日(における証人尋問の施行)の延期を請求したところ裁判長はこれが却下決定を宣し、弁護人が右決定に対して更に異議の申立をしたところ、裁判長は右異議申立をも棄却する旨の決定を宣した上、出頭した証人四名に対する尋問を施行し、同期日を終了したことが認められる。よつて考察するのに、なるほど刑事訴訟法第三百条(並びに同法第三百二十一条第一項第二号本文後段)の規定によれば、検察官は証人が公判準備若しくは公判期日において、先に検察官の面前においてなした供述と相反するか若しくは実質的に異なつた供述をした場合において、公判準備又は公判期日における供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況の存するときは、必ず右検察官面前調書の取調を請求しなければならないのであるが、その取調請求をなすべきや否やは、公判準備若しくは公判期日における証人尋問の結果を俟つて始めて明らかになる事柄あるところ記録によれば前記公判期日における証人尋問前には、該調書の証拠調を請求すべきや否やは未だ明らかでではなかつたことを窺うに足り、かかる場合にもなお検察官において必ず予め被告人側に該調書を閲覧する機会を与えなければならないとする根拠はこれを見出すことができないから、仮に所論の如く検察官が、弁護人のなした事前の閲覧請求を拒絶して該調書を閲覧する機会を与えなかつたとしても、被告人又は弁護人においてこれを理由にその閲覧が許されるまで公判期日(における証人尋問の施行)の延期を請求し得べき限りではないと言わねばならない。されば、原審が弁護人の上叙公判期日延期申請を却下し、更にこれに対する弁護人の異議申立をも棄却した上同公判期日において予定の証人尋問を施行したのは正当であつて、毫も所論の如き刑事訴訟法第三百条ないし憲法第三十七条第三項違反の廉は存しない。論旨は理由がない。
(三宅 河原 遠藤)